2003/03/23

初めての仏菜当番

 大庫院に転役して10日が過ぎ、二つ目の修行の波が私に押し寄せました。 仏菜当番に当てられたのです。仏菜(ブッサイ)とは仏様へお供えする供物、いわゆる霊供膳のことです。以前から永源寺でお膳は作っていましたので、特に問題ないと安心していましたが、そのような甘い考えはすぐに打ち消されてしまいました。なぜなら永平寺の場合、お膳の数が多く、またお供えする伽藍や材料により切り込み方法が事細かに決められていたからです。さらに、この当番には仏菜を作るだけでなく、他の公務もありました。

 仏菜当番の一日は振鈴(シンレイ:起床時刻を知らせるために小鈴を鳴らすこと。 この時期は午前4時)2時間前に起床することから始まります。 朝課(朝のおつとめ)で使用する仏菜を、各寮舎の仏菜フ盤器に付けるためです。 約30膳分付けるのですが、それだけでも数十分かかります。 それが終わると今度は掃除です。 大庫院内の通路や東司(トウス:お手洗い)、浴司(ヨクス:浴室)等の掃除をします。 そして掃除が一通り終わり次第、いよいよ日中諷経(ニッチュウフギン:昼のお勤め)に使用する仏菜作りに取りかかるのです。 お膳には、ご飯と煮物と香菜(漬物)の3品お供えしますが、40膳以上作ります。 厄介なものは煮物で、材料により大きさと味付け方法が全て決められているため時間がかかります。 例えばサツマイモなら縦・親指幅、横・包丁幅、厚さ2ミリ間隔で白煮の味付け。 ジャガイモならば厚さ5ミリで桜型にし、甘辛の味付け等など・・・大きさをきちんと守らなければいけないので、慎重に切り込んでゆくと予想以上に時間がかかります。 味付けは先ず自分なりに煮汁を作り、それを大加番(オオカバン:当番のひとつ。大庫院での修行期間が長い雲水が当てられる)にチェックをしてもらい、合格の後煮込むのです。 しかし最後まで気を抜くことができません。 煮込む時間が長過ぎたため材料の形が崩れると、もう一度初めから材料を切り込まないといけないからです。 仏菜作りは小食(ショウジキ:朝粥の時間)まで続きます。

 小食を済ませた後は行持(ギョウジ:永平寺全体で行われる作務や法要)に随喜します。 その間にも大庫院で竈公諷経(ソウコウフギン:竈神に対する諷経)を務めるなど、忙しい時間が続きます。 薬石(ヤクセキ:夕飯)まで行持に随喜して、夜坐(ヤザ:夜の坐禅)中に翌日の朝課で使用する仏菜を作るのです。 そして開枕(カイチン:就寝時間)前に庫院内の後始末をしてようやく一日が終わります。

 仏菜当番は、公務の中でも辛いものの一つです。 朝早くから緊張緊張の連続で休む暇がないため、法要随喜の際、坐禅堂で出堂を待っている時に立ちながら寝てしまうこともありました。 しかし、良いこともありました。 僧食九拝(ソウジキキュウハイ※)の導師をさせていただいたことです。 一般に典座老師が務められるのですが、他出(タシュツ:外出)されている時は仏菜当番が代役を務めることがあるのです。 ちょうど日曜日で観光客が多く、大庫院前にびっしりと詰め掛けた参拝者の視線を浴びながら、清々しく九拝させていただきました。 早朝から晩まで忙しい仏菜当番ですが、僧食九拝の導師を務めることで、修行僧の皆様に美味しく召し上がっていただきたいのと、修行のお役に立てたらという思いが深まりました。 法要には霊供膳はつきもの。 これからもこの気持ちを忘れず、精進してゆこうと思います。

※僧堂で食事が行われる際、庫院で粥飯を調弁し終わって僧堂に運ぶ前に典座老師が粥飯に焼香し、僧堂に望んで展坐具九拝すること。

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